彼が眼鏡を外さない理由
「…なんで」
思った以上に低い声がでて自分でも驚く。
わたし、こんな声もだせたんだ。
きっと、今のわたしの顔は聞き分けのない子どもよろしく無様にふくれているのだろう。
男はそんなわたしを嘲笑うかのごとく、片側の口角を持ち上げて意地のわるそうな弧を描いて。
しばしの逡巡(しゅんじゅん)の後、男はぽん、とわたしの頭に手を置いて、そのままくしゃくしゃと撫でてきた。
「駄目なものは駄ー目。わかる? 小さい頃お母さんに習わなかった?」
まるで、窘(たしな)めるような口調。
柳の葉のようにしなやかな線を湛(たた)える眉は"ハ"の字を描くようにしなだれかかっていた。
「……馬鹿にしないでよ」
またわたしのこと子ども扱いする。
むっと口を尖らせて言う。