彼が眼鏡を外さない理由



ガツンと、言いたいことは言ってやったつもりだった。


しかし、しょぼしょぼと風船のようにしなんでいく気分に抗う術もなく、最後のほうは顔をそむけたわたしにつられるように、その口調もしだいに尻すぼみになっていった。


モヤモヤとさせる胸のつかえに、ぐっと眉根を寄せるわたしはきっと目も当てられないひどい顔をしている。

言われるまでもなく自分でその覚えがあった。


でもそれをなおそうと顔に意識を集中させれば、力加減を間違ったのかなんなのか、今度はほっぺたまでむくれてしまって、結果的に悪循環。

こんなところで持ち前の不器用を発揮してくれなくてもいいのに。


はあ、と今日何度目か知れない小さなため息を漏らして、機嫌をうかがうようにそろそろと仰ぎみた男の顔は、相も変わらずなにを考えているのか判然としない胡乱(うろん)な表情。


いっそ醜いと罵ってくれればいいのに。

パッとしない容姿も、ドロドロと粘着質な心も、ぜんぶ。


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