アダルトチルドレン
空気がしんと静まりかえった
「ごめん。私もう帰るね」
喜代さんの手を振り払おうとした
「ちょっと待て」
喜代さんが私を強く抱きしめる
「…どうしたの?」
私は腕の中で目を閉じた
「俺は、妻にはもう五年間も触れていない」
「そうなんだ〜。私もう今日は疲れたみたい。帰りたい」
腕からの中から離れようとした
「まだ帰らないで」
喜代さんが私を必死になって抱き寄せる
私は、喜代さんのことなんかほんとは好きじゃないはずなのに
ただのお客さんとしてしか見てないのに
この気持ちが重苦しい感じはなんだろう
少し冷静になりたい
喜代さんの腕の中でぐるぐると複雑な感情がさまよっている
「私、明日も仕事あるからほんとにもう帰りたい」
「分かったよ。ごめんね」
喜代さんは私を離してタクシーに乗ろうとした
離れたとたん、急に何かが込み上げてきた
「ねぇ、また逢えるよね?」
「…うん。またね」
喜代さんはそう返事をして悲しそうな顔をして帰っていった