私の中の子供達
満腹感とポカポカした体を得た俺は鼻をかみ、爪楊枝をくわえて店を出たのだった。


相変わらず外は雪がチラついて冷え込んでいた。地面にうっすら積もった雪を蹴散らしながら会社へ戻っていたその時、人々の雑踏の中から俺はある1つの声をキャッチした。


「いってらっしゃい。」


おかえりなさい ではなかったが、その声のトーン、イントネーション、紛れもなく俺の求めている声色の持ち主である事に違いなかった。


すぐさま声をする方に体を翻し、雪の降る中着物姿で立っている君を俺の瞳は瞬時に捕捉した。



客らしい男に手を振り微笑む君。白い雪景色に薄紫の着物がやんわりと馴染んでまるで水彩画の様で、そこだけ幻想的な世界を作り出していた。


若者にしては今時珍しい黒髪を頭の上にまとめておだんごにしている。髪に触れた雪は瞬時に溶け、ただの水に成り下がるが、それがかえって君の髪をキラキラと装飾するのだった。


俺は雷に撃たれたようにその場に立ちすくんだ。惚れたとかなんとかじゃなくて、神のお告げかと疑うくらいに君の声が俺の琴線を揺さぶったんだ!

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