私の中の子供達
「ただいまー」


…アレ?


居間には誰もいない。


まさか寝室にいる訳ではあるまいと、居間と寝室とを区切るスライド式ドアを見、顔を右に向けていると、


「おかえりなさーい」

と、左側から声がした。


間違いなく江崎さん…嫌、ピノ子の声である。


開けたドアで死角になっていたのだ。


左?そっちは…


ドアを閉めると、そこには台所で煙草を吸っているピノ子が居た。


「そっちにいたんだね。一瞬居ないかと思ったよ」

「あはは、ちょうど死角でしたもんね」



今日の彼女もやっぱり理想通りの声色で、普通っぽい状況を作り出してくれていた。


偶然だと分かっていても嬉しいものだ。


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