藍色砂時計
「いやあ…っ!」
怖くて、逃げたくて、気持ち悪くて…
とにかく手足をばたつかせて抵抗するのに。
「うるせぇな。千尋、手抑えて」
冷たい目で見降ろしたかと思うと、“チヒロ”という男の人に視線もくれず命令する。
「はいはい」
私の頭の上にまわった“チヒロ”くんが、私の両手を掴んで頭の上に上げる。
それから私の両手をいとも簡単に片手で抑えつけたかと思うと、軽く溜息を吐く。
「ん、さんきゅ。俺が一発終わったら、御前にもまわしてやるからな?」
「それはどうも。――確かに、最近の女で貴女が一番可愛い」
下品に笑みを張り付けるちゃら男とは違って、妖しく艶めかしい綺麗な笑みを広げる“チヒロ”くんは、普通にかっこよかった。
けど、やってることは最低だから、抵抗は休まらない。
「ああ…そうだ。名前はなんていうんだ?」
空いた片手で眼鏡をはずせば、伏せがちな目をこちらに流しながら問うてくる。
…深い漆黒の様な目に見詰められたら、何故か素直になってしまって。
「…っ、あ、…葵、です…」
と、素直に口を開いていた。