恋百物語
「射型はすごく綺麗なのに。もったいない」
「…なにやってんですか」
「俺?なんか無性に弓引きたくなっちゃって。巻きわらくらいならバレないかなぁと思って来てみたら…。ハハ。もっと強者がいた」
先輩はいつも通りゆるい口調で笑っていたけど、伏せぎみの表情はやっぱりどこか寂しそうで。
もしかしたら、ひとりで泣くためにここに来たのかもしれない。
だとしたら私なんて邪魔にしかならない。
実際に彼と会って、改めて自分が部外者であることを思い知らされた。
「…帰ります」
なんでここに来てしまったんだろう。
なにもできないのなら、せめて邪魔だけはしたくなかった。