恋百物語
「足踏み」
「え?」
「射法八説。弓道の基本でしょ?それをなおざりにしてたら当たるもんも当たらないよ」
「や、だから私、帰るんですけど」
「大丈夫。ちゃんと見てるから」
だめだ。
会話が噛みあわない。
なんでこの状況で平野先輩に弓を教えてもらわなきゃなんないの。
意味がわからない。
「ほら。足踏み」
文句を言おうにも、先輩は意気揚々と指導するためのポジションを陣取っている。
私は小さくため息を吐くと、渋々右足を滑らせて足を開いた。
一瞬見えた、ポケットに突っ込まれたままの先輩の手が震えていた。