恋百物語

「足踏み」






「え?」

「射法八説。弓道の基本でしょ?それをなおざりにしてたら当たるもんも当たらないよ」

「や、だから私、帰るんですけど」

「大丈夫。ちゃんと見てるから」




だめだ。

会話が噛みあわない。






なんでこの状況で平野先輩に弓を教えてもらわなきゃなんないの。

意味がわからない。






「ほら。足踏み」






文句を言おうにも、先輩は意気揚々と指導するためのポジションを陣取っている。






私は小さくため息を吐くと、渋々右足を滑らせて足を開いた。











一瞬見えた、ポケットに突っ込まれたままの先輩の手が震えていた。






< 20 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop