恋百物語
「胴造り。集中して」
肩を落とし、背筋を伸ばす。
重心を真っすぐ、腰の中央に。
「もう少し前。…そう。ここが中心」
平野先輩の手が軽く腰に触れる。
そんなことをされたら逆に集中なんてできないのに。
平野先輩の瞳はいつになく真剣だ。
それは後輩に教える先輩としての瞳でしかなく。
胸がぎゅっと締めつけられる。
「弓構え」
矢をつがえて手の内をつくる。
しっかりと握り直し、的を見据える。
「打起し。肩に力を入れないで」
弓を頭の上にかざす。
「引分け」
水平に、少しだけ弓を引く。
平野先輩の声が心地よく身体の芯まで入ってくる感じ。