恋百物語
「会」
肩胛骨を寄せてゆっくりと弓を引いていく。
弓は腕じゃなく、背中で引くものだって入部当時に教えてもらったっけ。
「まだ。もっと伸びる」
重心を整え、焦点を合わせる。
大丈夫。
もう的しか見えていない。
「離れ」
――パンっ!!
当たった。
「残身」
ゆっくりと腕をおろし、足を閉じる。
どうしよう。
なんでだろう。
たった一本の当たりが、まるで初めてのときみたいにすごくうれしい。
考えすぎてもやもやしてた霧が一辺に晴れたような。
「よくできました」
一礼して下がると、クリアになった思考の中心に平野先輩の少し元気のない笑顔が飛び込んできた。