恋百物語
――ダンっ!!
私が持っていった矢は、再び平野先輩の手で綺麗に的に突きたてられた。
弓をかざし、引き抜く最後の瞬間まで一瞬たりとも動かない鋭い眼光。
普段ねじのゆるい彼が魅せるそのギャップに、初めて見たときから私は彼の虜だった。
矢が一本放たれるごとに私の中で好きがつもる。
「あー。また先輩に熱視線送ってる」
「熱視線って…」
道場の外で練習しながらちらりと盗み見ていると、後ろから頭をポカっと叩かれた。
慌てて振り返れば仁王立ちした須藤ちゃん。
なんでみんな人の頭をポカポカ叩くんだろう。
できれば普通に声をかけていただきたい。
まぁ私は他の人よりだいぶ背丈がこじんまりとしてるから叩きやすいのかもしれないけど。