恋百物語
訳のわからない公式が並ぶ黒板。
カリカリとあちこちでペンを走らせる音をBGMに、軽く視線を右側に移していく。
隣の隣のひとつ前の席の熊谷さん。
xの二乗とyの二乗を器用に分解している。
とまることのない指先と書きだされる数式はこの上なく美しいのに、それを見つめる瞳は限りなく退屈そうで。
そのギャップにいつも笑えた。
どの授業でも彼女はそうだ。
あてられれば必ず正解を導きだすし、ノートだってしっかり取っている。
授業態度は悪くない。
なのに真面目だという印象を欠片もあたえないのはやはりそのやる気のない表情のせいだろうか。