恋百物語


慌ててペンを持ち、下を向いて問題を解き始める。






なんだっけ?

まずはxを移行するんだっけ?






心臓がばくばくうるさくて集中できない。

いや、集中したって数学なんてろくに解けやしないんだけど。






どれだけ視線で追ってみても、知りたいという欲求が溢れてきても。

俺はこれまで彼女とまともに会話を交わしたことさえない。

担任に頼まれてなにかのプリントを回収したときに、熊谷さん、だした?と聞いたくらいだ。

これからだって積極的に話しかけてみる予定は俺にはない。






いつだって退屈そうな彼女にとって、俺はそれを助長する程度の存在でしかないだろう。






幾分か動悸も落ち着き、わずかに顔をあげてみる。






彼女はもうこちらを見てはいなかった。






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