サクラドロップス
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電車を2本遅らせても、始業前の軽い掃除とインスタントコーヒー位は飲める。
アタシは会社の給湯室の壁に寄りかかりながら、香りも苦味もない、マグカップの底が見える位に薄く淹れたアメリカンを、ゆっくりと胃に流し込んでいく。
しばらくすると、事務所にザワザワと人の気配が増えてきて、コーヒーが飲み終わる頃にはアタシ宛ての内線が響く。
けれど大抵、その少し前に安藤が・・・
「ユキさぁぁん!オハヨウゴザイマス!!今日も素敵です!大好きです!二日酔いの機嫌の悪い顔もセクシーです!!!」
と、騒音に近いオハヨウの挨拶をしに来るから、アタシはいつも・・・
「ウルサイ安藤。もうそろそろ始業時間だよ。今日回る店舗への資料一式は出来てんの?」
と、小言を言ってやる。
そう、これも、いつものアタシと安藤の、朝のやり取り。
こうして会社にいると、今朝の出来事が夢か幻かのようだ。
でもちょっと視線を上げて、事務所のアタシのデスクの上を見ると・・・
「あるのよねぇ・・・お弁当」
いつだか買った、アリエナイ配色のバンダナに包まれた、アタシの為に作られたお弁当が・・・