神様に見捨てられた世界で生きる僕ら
黒い歯ブラシ、二人分の体温
出逢ったのは偶然なんかじゃない
俺に運命なんて有り得ない
*千夜視点*
「ぁー、また空笑いしてら」
誰に言うわけでもなく、独り、口許に弧を描きながら水面に映る黒色の瞳の少女を見つめる。
水面に手をかざし少女の映る情景から普通の水面に戻し、上質の皮が張られたソファに腰を深く沈める。
はぁ、と吐いた深い溜息の原因は水面に映った少女---八重ちなみだ。
紅茶の入ったカップに手を掛けるも、飲む気にもなれずにカップを揺らしユラユラ揺れる琥珀色の液体に自分の顔を映すだけだ。
「丁」
「お呼びですか、千夜様」
カップをソーサーに戻し、執務机に戻って秘書---丁を呼ぶ。
すると直ぐに返事が返ってきて机を挟んだ真ん前に姿を現せる。
「少し・・・此処を離れる」
「・・・あの少女の所に、行かれるのですか?」
全て、お見通しか。
目の前に立つ俺より幾分か年上の青年---丁の、金色の瞳が真っ直ぐ俺を射抜く。
その目に肩を竦め、懐かしさから細めた空色の瞳に丁を映す。
「そのつもりだ」
「なりません!貴方は"人間"と関わってはならない存在なのですよ?!」
「"人間"とは、関われん存在か・・・。
ならばこの地位、捨てるまでだ」
椅子から立ち上がり、殺気を交えた目を丁に向ける。
そして怯む丁をそのままに、部屋から出て行こうとすれば、気付いたように丁が俺の後について回る。