Distance of LOVE☆
個室にこもってから、約40分経ってようやく、作業終了。

悠月を先頭に部屋から出てくると、皆が羨望のまなざしで僕たちを見ていた。


「2人きりで、何やってたんですか?」


「何って…編曲作業だよ。
皆をちゃんと…全国大会に連れていくための…ね。」

「そうそう。
ちゃんと皆の負担にならないような楽譜にしてきたからね?」


悠月のその言葉で、何を期待していたのか、皆の目から輝きが消えた。


「じゃあ、和、よろしくね?」


悠月にそう言われてから、僕はピアノの前に座った。
これから…編曲したものをピアノで披露してから、楽器を割り振るんだ。


演奏を終えると、自然に拍手が沸き起こった。


「さすが、世界のピアニストですね…」


「音色からα派が出てるみたい…」


「やっぱ和だなぁ…
すごいって言葉しか、もう出てこない。」


悠月。
おだてても何も出ないからね?


楽器を無事に割り振ったところで、そのパートの人たちに個人練習をさせた。

そして僕たちは、暫しの休憩。

そんな中、アルトサックスのソロを吹いていた、茶髪で童顔の男の子が、僕に声を掛けてきた。
相談があるみたい。


「…で?
どうしたの?僕に相談なんて。」


大人っぽいけど大人にはなりきれていない大学生らしい、悩みだった。


「あのあの…僕…彼女いるんですけど…彼女…応じてくれなくて。
その…キス…以上のこと。和之さんなら、…奥さんいるし、もうすぐ子供が…っていうなら、いいアドバイス貰えるかな、って…」


なるほどね。

まあ…そんなことじゃないかと予想はしてたけど。

だって…まだ20歳そこそこでしょ?
戸惑う…よね。
そういう行為に及んで…万が一にも妊娠、なんてことになったら。

僕も…そうだった。
あの日、空港で、ゆづ本人から妊娠のこと聞いて…嬉しさはあったけど…

僕が父親なんて…

って、不安と戸惑いでいっぱいになった。
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