Distance of LOVE☆
「和…?」


ゆづの声が聞こえたと思ったら、部屋のドアからひょこっと顔を覗かせていた。

すいません、と画面越しの教授に頭を下げてから、彼女に駆け寄る。


「どした?
…どっか…痛い?
ごめんね。ピアノで起こしちゃったら…」


「大丈夫。
時間確認しようと思ってちょっと目を覚ましたら、和のピアノが聞こえてきたから、ずっと聴いてたの。
やっぱすごいなぁ…和。
私が弾いても、こんな音は出ないと思う。」


とか言いながらゆづは、ピアノの前まで歩み寄って椅子に座る。


「落ち着くなぁ。
…やっぱ、ピアノの前は。」


一言だけ僕にしか聞こえない声で呟いたゆづ。

不安なんだな…ゆづも。
母親に…なるんだもんね。

深呼吸をしてから、ピアノに手を添えて、子犬のワルツを弾き始める。
さっき僕が弾いていた曲だ。


弾き終わると、僕のほうをまっすぐみながら言った。

「さすが、和だね。
あんな音、和しか出せないよ。
だって和、ペダルの使い方、上手いんだもん。」


ゆづ…気付いてたの?


『私も、さっきそのことに気づいたんだよ。
さすが、和くんの奥さんだ。よく見ている。
あのコンサートのときもすごかったけど、生で聴くとやはり素晴らしい。」


教授も…ウィーンのあのコンサートに来ていたらしい。


教授は気が向いたら悠月にもTV電話越しのレッスンを受けるよう勧めてから電話を切った。


「ごめんね?なんか…いろいろ。」


「気にしないで!!
皆、楽しかっただろうし。」


悠月はそう言って、笑っていた。

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