Distance of LOVE☆
皆、朝の会議の時から上の空だった。
頭を占めているのは美月ちゃん…か。

お昼休憩の後、
プロデューサーさんに、谷村 美月さんを迎えに行くように言われる。


「何で和之だよ~。」


皆からの不満の声も気にせず、玄関まで迎えに行く。

「初めまして。」


レースのカットソーにチノパン、上にツイードコートを羽織っている女性がいた。


「初めまして。
谷村 美月と申します。
本日はよろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


そう言って、僕は彼女をアフレコをするスタジオに案内した。


僕の同僚たちが発する、可愛い~
という声一言一言に、ニッコリ笑って応対していた。
出た…
自分の可愛さを自覚しているタイプ。

僕…正直ニガテなんだよね。


「よろしくお願いします。」

アフレコスタート。

音響やマイクの調整は僕。

プロデューサーの指示を、的確に伝える。


推理アドベンチャーゲームだから…

声を撮るのは二言三言。

だけど、それでもかなり色んなバージョンのものを録った。

声質を微妙に変えたものを、とにかくたくさん。


何度もマイクがダメになって、3回ほど変えた。


収録が終わったのは、午後5時。


「お疲れ様です。
3時間ほぼ、休憩なしで…」

「いいえ。
大丈夫です。
慣れっこですから。」


僕は、谷村さんが何か話す際に、ふと表情を曇らせるのに気付いた。


「あの…何か、悩みでもあるんですか?」


そう、聞いてしまっている自分がいた。


その曇りがちな表情が…出会った頃の悠月に似ていたんだ。

このとき、聞いたことで…悠月にまた嫌な思いをさせるなんて、思いもよらずに。
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