Distance of LOVE☆
大丈夫!


そう思って、会社に向かったけど、何だか……嫌な予感しかしなかった。

いつも擦り寄ってくるチャッピーも、来なかった。


「今日の手術、よろしくお願いするわね?」


病院の入り口で、50代半ばくらいの女性に声を掛けられた。

でも、確かに顔にシワはあるが、肌は綺麗だし、からし色をベースにした花柄のワンピースを着こなしていたので、見た目より若く見えた。


「はい。
全力を尽くします。」



私はそれだけを言って、足早に病院に入っていった。


「すみません………遅くなりました……」


「お,奈留か。
頑張ろうな?一緒に。」


雅志の言葉に、強く頷いた。



患者は、ボーダーコリーだ。



決めてかかっていたんだ。



私にわざわざ資料まで送ってくれたんだから、バベシア病に決まってる、って




バベシア病は、適切な検査、及び治療を行わなければならない。

貧血に対しての治療とともに、薬物治療。


一生懸命治療を施したが、一向にボーダーコリーの回復の兆しは見られなかった。



それどころか、その数時間後、病院内に空しく、一定の機械音が響き渡った。




これだけでは、すまなかった。



この手術後、私は院長に呼び出された。



「何ですか?院長…」



「……率直に言おう。君を見込んだ私が間違いだった。
君は獣医師失格だよ、奈留ちゃん。」



……は?



「今回のボーダーコリーの症状は、どう見ても、君の判断ミスだ。

あの症状はバベシア病ではない、溶血性貧血だよ。」



え……



「それなのに君は、余計な処置をした。
無理にノミやダニの駆除をするため、不用意に犬の皮膚を傷つけた。

無駄に身体の中に細菌を侵入させた、ということはわかるね?
溶血性貧血はほんのわずかな菌が入ってきたときに命取りになる。


つまり、あの犬を死に追いやったのは、君自身、だよ、奈留ちゃん。」




目の前が、真っ暗になった。



一気に世界が反転した。


虹色の光輝いた世界から、真っ暗で何も見えない世界へと。




「奈留ちゃん、君は懲戒免職だ。もう、明日からこの病院には来なくていい。
荷物をまとめてくれ。」




院長さんのその言葉すら、よく聞こえなかった。



徐々に、目の前の景色が不気味に歪んでいたことしか、頭になかった。















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