Distance of LOVE☆
「…奈留っ…
ホント…なの?
妊娠してる…って…」


「うん…
だけど…もう…いないんだよっ…
私と…雅志の赤ちゃんっ…」


何も言わずに、私の肩をポンッって叩いてくれた。

すると、パサッと、何かが床に落ちる音が。


「あ、忘れてた。
オーナーから預かったんだけど。
これ、どういうつもり?」

雅志が差し出してきた1枚の紙。

彼自身のサインが必要な…手術同意書。


「まさか、手術することで、俺に黙っておこうとしたの?」


「でも…良かったね。
サインする必要…なくなったよ?」


「奈留っ…!」


「だって…怖かったんだもんっ…
こんな身体で…雅志に迷惑かけて…
愛想尽かされたらって想像しちゃってっ…」


雅志は、ぎゅって抱きしめようとしてくれた。


…だけど。


足早に高いヒールの音が響いてきたと思ったら、部屋のドアが開いた。

その直後、私はベッドに倒れ込んでいた。

頬が赤く腫れていて、ジーンとした痛みを感じた。


私の頬を平手打ちしたのは…お母さんだった。


「ふざけないでっ!
中絶するとか…そんなくだらない理由で考えるなんてっ…
それでもあなたは…
私のっ…
産婦人科医の娘なのっ!?」

いつになく大きな声で私に怒鳴り付けた母親は、そのまま早足で部屋を出ていった。


「……奈留。
ちゃんと…俺のことも考えてくれたんだろ?
気持ちは充分、嬉しいから。
ありがとう…」


今度こそ…雅志は優しく私を抱きしめてくれた。


「気付いてやれなかった俺も悪いから。
…だから…自分を責めないでいいんだよ?」


「ありがっ…」


なんで、雅志はこんなにも優しいんだろ。
その優しさに、また涙がこぼれた。
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