碧眼の天姫―刀の後継者
庭の池の鯉を見つめる。
相変わらずこの家は無駄に広い。
それ故に人との距離も広かった。
この家も、人間も嫌い。
でも…この池の鯉も、この屋敷の人間も必死に生きている。
それを救おうとするのは間違いでは無いと思う。
「美琴………」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、母様が立っていた。
「母…様………」
記憶が戻った事…母様は知らない…
知らない方が良い…
また母様を傷付ける…
「母様…どうしたのですか?」
だからとびっきりの笑顔を母様に向けた。
母様の顔も嬉しさで笑顔に変わる。
記憶を失う前のあたしにはできなかった笑顔…
何もかも…本当に忘れてしまえたら良かったのに…
「美琴、今日は美琴に見せたいものがあるのです」
母様は今までに見た事の無いような笑みをあたしに向ける。
―ズキンッ…
母様を騙している自分が苦
しかった。
「母様…はい、私も見たいです」
無理矢理に笑って母様に駆け寄る。
何年ぶりか、手を繋いで家を出た。