碧眼の天姫―刀の後継者


「…どうして……?」


はらはらと舞う白銀の髪が、まるで散り際の桜のように見える。


でも、その美しささえ目に入らぬほどにあたしは動揺していた。


髪が短くなった理由も、目の前で草助様が笑みを浮かべた理由も…


何一つ分からない。


「…美琴」

「…は…い………?」



優しげに名を呼ばれ、半ば無意識に返事をする。



「お前は…天宮美琴は、いまここで死んだ。死んだ者に私達は何も望めぬし、強制も出来ないだろう」


その言葉で草助様の真意を悟った。


草助様…………



涙が一滴、頬を伝った。



あたしを逃がそうとしてくれた。長という立場で、情さえも捨てざる終えない草助様が……


世界よりあたしを……



「今度こそ、天姫を救いたかったのだ、救えなかった…いや、見殺しにしたあの人への償いの為にも…」


虫のいい話だな…と、草助様は付け加える。



「お前の叔母にあたる、天宮艶乃という女性を私は愛していた…」



あたしの叔母……
母様のお母様。


艶乃…お祖母様……


「でも、背負う責任と彼女を天秤にかけたすえ、私は彼女を捨てたのだ…」


自嘲するかのように笑い、草助様は瞳を閉じた。


「艶乃の心は自らの身を捧げる事で、次第に追い詰められ……壊れた」


天姫はどんな時代でも、何かを捧げて生きてきた。


ただ犠牲になる為に生まれた。


だから、お祖母様の心が壊れてしまうのは、当たり前だ。


「そして、自ら命を絶ってしまった。お前と面立ちが良く似ておる。母親である静以上に…」



母様も、艶乃お祖母様も…
もうこの世界にはいない。"死ぬ"、というのは永遠の別れなんだ。


「せめて…彼女が愛した者達を、繋いだ命だけでも救いたかったのだ。すまない、もっと早くこうしていれば良かった…」


深々と頭を下げる草助様にあたしは慌てて駆け寄る。











< 271 / 330 >

この作品をシェア

pagetop