【短編涼話】 十物語
倍返しの神様
昔、婆ちゃんが言ってたな。

桜を見上げる度、胸の底がザワリと揺れる。

「新月の桜には近付くな。あれには―――。」

何て言ってたっけ?

余りにもおぼろげで頼りない記憶。

僕の話を聞いていた美月が、クスクスと笑う。

「桜と言えば、よく死体が埋まってるなんて言うじゃない?うちの学校にもあるんだって。すごく、妖しい桜の木。」

美月が動くたび、サラサラの髪が零れて、甘い香が鼻腔をくすぐった。

妖艶な桜ならここにもある。

見る者全てを虜にしてしまいそうなほど、美月は美しかった。
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