優しい涙
僕は生まれてから一度も、実家の外へ出たことがない。


藤波邸の門に着いた時は、初めて見る大きな屋敷や大勢の人に圧倒され、ひどく緊張してしまった。


僕は挨拶はおろか、ひとことも口がきけず屋敷の前で何時間も突っ立ていた。

『おまえは挨拶も出来ないのか!』

屋敷の門番に凄まれた僕は怖じけづき、ますます何も言えなくなった。



挨拶もろくに出来ない僕に屋敷の人達は激怒し、すぐに実家へ送り返すべきだと口々に言い放った。

僕は震える体を抑えるのがやっとで、挨拶どころではなくなっていた。


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