優しい涙
「失礼します」


扉を開けると藤波様は窓から外を眺めている。


今日A7が草むしりをした中庭の辺りだ。


中庭は、あちこちの木陰からライトアップされたオレンジ色の光で、幻想的な夜の空間を演出している。


藤波様は僕にテーブルに着くよう椅子をすすめると、自分も椅子に腰をかけた。



「最近、A7の調子はどうだ?」


藤波様はタバコに火をつけると、何気ない世間話をするみたいに自然に切り出した。


「はい。問題ありません……」


堂々と答えたつもりだが、藤波様に見つめられると、つい目をそらしてしまう。


A7に問題がないと言えば嘘になるからだ。

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