優しい涙
「悪かったな。A7をせめているわけじゃないんだ」



わかっている。


藤波様がそういう人でないことは僕がよく知っている。


「おまえを泣かせるために呼んだつもりもないのだがな」


藤波様は苦笑いしながら、僕の頭にポンと手をおいた。


藤波様の大きな手から伝わる熱が、体中を駆けめぐる。


焦った時のほてりとは別の、心が安らぐ穏やかなぬくもり。


藤波様の優しさで体中が満たされると、涙はますます勢いを増して頬を濡らした。


いい加減、泣きやみたいのに…


なかなかとまらない涙にいらだち、僕はゴシゴシとこぶしで顔をこすった。


こんな時、藤波様は何も言わず待っていてくれる。


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