優しい涙
「僕は大丈夫です。

痛みを感じる機能は作動していませんから。

血もないので周りを汚さずにすみました」


淡々と話す僕に藤波様は目を細め


「でも、心は痛むだろうに…」


そう言って僕を抱き上げ、土蔵から屋敷へ運んでいってくれた。


「あの…」


大丈夫です


僕は大丈夫ですから



途中、何度も言いかけたが言えなかった。


藤波様に運ばれている揺れの心地好さを失いたくなかった。


同時に、藤波様に迷惑ばかりかける自分をつぶしてしまいたいほど憎らしく思った。


僕が複雑な表情をするたび藤波様は

「今は何も考えずにいなさい」


優しく言った。


僕は「はい」と答え
、目を閉じた。



藤波様の役に立ちたい…


心の中で呪文のように、そればかりを繰り返した。




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