イデア
でも、そんな伶の手を止めたのは陽都でも、静でもなく、もちろん私でもなかった。
「・・・・・羽瀬・・」
口から思わず、小さな声がこぼれる。
「・・・・・ごめん・・、何か、余計なこと言ったみたいだし、咲が悪いのかもしれないけど」
「ちょ・・・っと、放し・・・」
「これでも、俺の彼女だからさ・・」
「・・・・・・っ、放してってば!」
伶の手から羽瀬の手が離れる。
「伶・・・」
「嫌なこと思い出した・・・帰ろ」
少し、辛そうな顔をする伶に
胸がきゅっと締めつけられた気がした。
「じゃあね」
鞄を持って出ようとした時、背中の向こうから羽瀬の声が聞こえた。
「あ、うん」
曖昧な笑顔と素っ気ない返事をそこに残して、3人の後を追って教室を出た。