【完】そばにいるだけで



「ま、いろいろあるわな。誰だって悩みの一つや二つ」



そう言って、コーヒーを一口飲んだ。



わたしは静かにうなずいた。



「言ってみな。しゃべったら、ちょっとは楽になるかもよ?」



先輩は穏やかな顔を私に向けた。



わたしはちらりと見て、すぐに視線をそらせた。



先輩が気の利いたことを言ってくれるたびに、わたしの胸はずきずきする。



桐生くんのことが好きなのに、先輩の気遣いが心に染みてくる。



わたしはますますうつむき、静かにくちびるを噛んだ。


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