【完】そばにいるだけで
「うん……あのね。この前桐生くんとお出かけした時、三郷さん、見かけたでしょ?」
「ああ、あの時そう言ってたね」
「ほら、あそこって、なんていうの。なんか、ね。大人のお店がいろいろあるところだったじゃない?もし、三郷さんがわたしに見られてたことに気づいてたのだとしたら……あの検査薬は三郷さんのかも、って噂を、わたしが流してるんじゃないかって、思ってないかな、って……」
床を見つめながら話す声は、どんどん小さくなっていった。
「考えすぎじゃない?」
「だったらいいんだけど……」
「それに。彼女の悪評は今に始まったことじゃない」
桐生くんのその言葉に、わたしは少し驚いた。
ただ事実をさらりと言っただけだったのだろうけど、なんだか桐生くんらしくない、と思った。