【完】そばにいるだけで
駅に向かう帰り道、わたしは桐生くんの隣りを無言のまま歩いていた。
なんだか気まずくて、どう話しかければよいのかわからずにいると。
「昼休み、忙しかった?」
突然の問いかけに、心臓が跳ねた。
「ご、ごめんね。ちょっと友だちに引き止められちゃって」
とっさに嘘をついた。
「そっか」
そう言うと、桐生くんはそれ以上何も尋ねてこなかった。
再び訪れる沈黙。
気になることはいろいろあるけれど、わたしからは聞けない。
立ち聞きしていたのが、ばれてしまう。
悶々とした気持ちのまま、わたしはただ静かに桐生くんの隣りを歩いた。
そして結局、桐生くんの口から今日の昼休みの出来事について語られることはなかった。