【完】そばにいるだけで
ありがとう、桐生くん
「いくぜ!」
そのかけ声とともに、爆音がライブハウスに響く。
ハードロック系の衣装に身を包んだ銀髪のボーカルが、マイクを握っている。
この男性こそが、三郷さんの彼氏だった。
「この前見かけた時と、全然違う」
桐生くんの耳元でそう言ってみるけれど。
「え?なんだって?」
「この前見かけたときと全然違う!」
大きな声で叫んでようやく、うんうん、とうなずいてくれた。
つい先日は、ここから程近いところにある演芸場で落語や漫才を聞いていたのに、まるでここは別世界。
若い女の子たちが、髪の毛を振り乱して、ヘッドバンキングしている姿に、あ然としてしまった。