【完】そばにいるだけで
わたしはひらめいた。
持っていた単行本を開き、その場で本を読むフリをした。
そして、本に視線を落としたまま、わたしはただ姿勢を変えただけなのよ、という空気をかもし出しながら、少しずつ振り返っていった。
作戦大成功!
これなら、本に視線を落としたままだから、目のやり場に困らなくていい!
わたしは活字を一生懸命目で追った。
斜め前45度にいる桐生くんを、時折ちらりとのぞき見しながら。
言うまでもないけれど、活字はちっとも頭に入ってこなかった。