【完】そばにいるだけで
その翌日も、そのまた翌日も、わたしはそこで本を読み続けた。
もちろん、桐生くんに話しかけることはできずにいた。
でも、それでもいいと思う自分がいることに気づいた。
そこに、桐生くんがいればいい。
桐生くんのそばで、一緒に本を読んでいるその空気が、なんだか不思議と心地が良かった。
ほんの少し落ち着いて、活字を追えるようになってきた頃。
「何を読んでいるの?」
という声がした。
その声はまぎれもなく桐生くんのもので、わたしは一瞬自分の耳を疑ってしまった。
その声は明らかに、わたしに向けられている。