【完】そばにいるだけで
彼はわたしにしたように、ブックカバーを外して城山さんに表紙を見せた。
「すごい!さすが桐生くん!難しいの読んでいるんだね!」
と大げさに褒めながら、きれいに巻かれた髪をくるくると指に巻いて遊んでいる。
わたしは『無』になって、様子をうかがいながらそこで本を読み続けた。
「一週間に何冊くらい読むの?」
「どの本が好き?」
「わたしも今度読んでみる」
と、城山さんは彼から返ってくる『単語』に対して、見事に会話を展開していった。
その時、わたしは少し意地になっていて、その場から去らなかった。
本に視線を落としたままだったけれど、彼の視界に『城山さん』だけが映っているのが嫌だった。
片隅にでも、いや、たとえ空気でもいいから、彼のそばに存在したかった。
城山さんにとっては、目触り極まりなかったと思う。