【完】そばにいるだけで
持っていた単行本が手からするりと抜け落ちて、ことり、と音を立てた。
動けなかった。
二人から視線をそらすこともできず、そこに立ち尽くした。
すると、城山さんがわたしに気づき、そして、桐生くんもわたしを見た。
二人の視線がわたしに刺さる。
それでも、わたしは動けなかった。
体が固まってしまって、息をするのすら忘れていた。
そしてようやく我に返り、わたしは本をそこに置き去りにしたまま、踵(きびす)を返してその場から去った。