【完】そばにいるだけで
体育館へ入り、自分の出席番号の椅子に座る。
どうも落ち着かず、周囲をきょろきょろと見回していた時。
「草壁(くさかべ)さんですか?」
という涼やかな男子の声が降ってきた。
「はい」
声のした方を見上げた時、わたしの鼓動は一瞬止まった。
その男子は「美しい」という表現がぴったりだった。
「僕は桐生(きりゅう)です」
それだけ言って、わたしの前の椅子に座った。
広い背中が視界を遮る。
胸がざわざわとして、無意識にメガネを押し上げていた。
わたしは一瞬にして、恋に落ちた。