【完】そばにいるだけで
昼食後は、屋上で桐生くんの隣りに座り、本を読んで過ごしていた。
会話は相変わらず少なかったけれど、穏やかな時間だった。
時折吹く秋の風は、少し冷たい。
桐生くんの髪がさらさらとなびいている。
髪をかき上げながら本を読んでいる姿は、いつ見ても美しい。
胸がきゅんとする。
桐生くんに少しの間見とれていたら、彼はふと顔を上げ、
「なに?」
と言った。
「う、ううん。なんでもない」
わたしは慌てて本に視線を戻す。
まさか、見とれていました、なんて言えない。