独:Der Alte würfelt nicht.
 
   
 ――貴方といるから楽しいのよ、なんて…20年経ってもきっと言えないわね…。


歪みの無いシャープな顎を見上げて、歯の浮くような似合わない言葉は噛みつぶす。

私以外の女の子にも、きっと類似した感情を持たせているのだろう。

面白くない事を想像してしまい、表情に出す前に話題を切り出す。


「そう言えば、退学の仮手続き済んだわ。必要な書類を持って、保護者様と一緒にご来学下さいって話よ?」

「…そうだな、近い内に都合をつけるとしよう。ほら見なさい、街が一望できて爽快だろう」

「本当…凄いわね。今更ながら、パンドラって綺麗な国だと再認識させられるわ」

「唯一無二の水上都市だからな。箱庭も最近冬の装いから春に変更されて一層華やかになったからな」


巨大な“箱庭”の中に聳えたつ建物、街の中央に植えられた老木は樹齢を数えるのさえ気が遠くなる。

その真上に設置された巨大な空調管理システムは、現在の気温と数時間おきの気候を表示している。

数百年ほど前には環境、飢餓、汚染、資源、人口等の問題を抱えている中、人間は自然によって大量殺害を行われようとした。

だがそれを待たず、世界を暴力により根底から覆したのは、知名率もさして高くはない、小さな島の研究所。

その世界地図の点でしかなかったその島から、細く赤い閃光のようなものが幾重にも放たれていたのを後に衛星がとらえていた。

それは光の速度を越し、世界中の各都市へと照準を合わせ…攻撃した。

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