独:Der Alte würfelt nicht.
――窓から部屋へと入り込む春の陽気にうっとりしながら、アールグレイの香りに身を任せていた。
1秒1秒が・・・数10分のように感じる、ゆったりとした甘い時間。
あくびをかみ殺しつつも、先ほどから眠さのため相槌しか打たなくなった私に、にこやかな笑みを浮かべて会話を続けるカノン。
今日で彼と過ごす休日は5回目になる。
何が楽しいんだろうと頭の端で考えながらも、冷めてしまった紅茶を喉に流し込んだ。
「…はぁ…」
生ぬるいのか、冷たいのか。
その感覚すらわからない。
まるで気の遠くなるような常温は・・・熱い紅茶に落とされた角砂糖のように、トロトロと私の脳を溶かしていくようだった。
「・・・眠そうだね。昨日夜更かししてたからかな」
「・・・ふあぁ・・・よく言うわね。誰かさんの所為なのに」
「否定はしないよ」
口の端を吊り上げて優雅に笑う彼の仕草。
それを見つめながら、働かなくなった脳でゆっくりと昨日のことを思い出した。