独:Der Alte würfelt nicht.
「う…ううっ…う、あ…あ…」
「うさぎなら俺が一緒に探してやるよ。だから…落ち付くんだ。息をゆっくり吸って…吐く。ほら、やってごらん?」
「…ふ…ふっ…う、ううっ…ふあ…」
「お、おい。大丈夫か?おい、おいッ!!」
息を大きく吸って、吐いた途端少女の体から力が抜けていくのを腕の中で感じ取る。
背中をさするリズムに合わせて呼吸をし、安心したのか強張っていた表情を和らげた。
眠る様に瞼を下し、濡れた長い睫毛から頬に一筋の線を描く。
俺の服を小さな両手の平に握り込んで、その間に顔を埋めて意識を手放す。
――どう、するか。まずは医療施設に連れて行って…あと…身元の確認を…。
雨水と外気に晒され、本来ならば薔薇色に染まる筈の少女の頬は、血の気の引いたように真っ青だ。
伏せられた瞼を飾る長い睫が寝息と共に揺れ、飴細工の様な甘い髪が身を捩る度に指先から零れる。
幼い容姿を残す少女は、12,3歳ぐらいの年齢だろう。
まるでアンティークドールの様な愛らしい容姿は、名の知れた職人が何十年という年月をかけて完成させた作品にすら思える。
「…何だ、これ…」
ぬとり、と。
明らかに雨ではなく、糸を引くような粘着質な感触に気付いたのは随分後だった。
少女の背中を支えていた手に絡みつく何かを確かめる為に、片手を腕を引きぬく。
崩れ落ちそうになるのを支えながら、その正体を確かめる為に手の平を目の前で広げた。
視界が一瞬、その色で焼きついてしまい、体の震えより先に声が漏れてしまう。