独:Der Alte würfelt nicht.
「ゴホッ…うっ…はぁ、う、わぁ…はっ」
彼女の洋服を赤い服だと思い込ませていたのは、ソレの所為だろう。
色を吸いすぎて分からなくなっていた純白のエプロンドレス。
煤けていると思ったフリルは、ただその“色”が雨によって薄められただけで――。
ゴロン、と。
後ずさった時に指先に当たった奇妙な感触で、俺は反射的にそちらを見てしまう。
“ソレ”を視界に入れた途端、消化しきって無い胃の中の内容物が、口の中に広がっていく。
とうとう耐えられなくなって、周りに撒き散らせば、…目が合ってしまった。
「う、うわああッ!!ガハッ!!ううぅうッ…うぐうぅうっ…はぁ、ああ…かはっ…!」
地面に両手をつき、赤黒い泥を指が白くなるほど握り締める。
髪から頬を伝い、顎へと流れる雨水が…今はなぜか心地いい。
血を撒き散らして転がった頭は未だ俺を見つめていた。
まるで犬にでも噛み千切られた様に切断された首の断面は、糸を引くようにむき出しになっている。
水によって血を流され、その姿を露にした血管。
横向きになったそれは、唾液のように口から雨水を垂れ流し、眼球の片方は抉り取られていた。