独:Der Alte würfelt nicht.
「――嗚呼、新車だったのに。まだ誰も乗せていなかったのにな…何で野郎と汚い子供なんて乗せねばらならいんだ…」
「悪かったって言ってるだろ。でも一大事だったんだ。一大事だったんだよ」
「同じ事を二度も繰り返すな…耳が痛い。検査をしたが何の異常もなかったじゃないか。さっさと帰宅しろ。私は軍に戻るぞ」
「取りあえず温かい場所へ連れて行きたいんだ。可哀そうに…こんなに震えて…」
少女を抱き寄せる俺に意味深な表情をするシャーナス将軍の事は、視界に入れないようにする。
俺の腕の中で眠る少女は、先ほどよりは幾分ましな顔色となっていた。
時たま吐息をもらし、言葉に成らない寝言をもらす。
落ち付かせるように髪を撫でると、安心したように体を擦り寄せてきた。
「…おい、下手に愛着を持つな。いずれは警察に引き渡す、…って聞いているのか?」
「分かってる。俺だって軍人だ。分別は…付けるつもりだよ」
「ならいいが」
医療施設に連れて行ったあと、汚れた服も一緒に洗ってもらった。
泥と血にまみれた白いエプロンドレスは、全体的に茶色い染みが広がってしまった。
幸いにも少女にけがはなく、軽い栄養失調と診断されて薬を出してもらった。
身元は分からず仕舞いだったが、その場に置いておくことも出来ずに俺の家に一時的に保護する事になった。