独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
 ――…泣いたり笑ったり、忙しい奴だな。


ガラス張りのテーブルからテレビのリモコンを探す。

どれだけ世界が便利になっても、これだけは変わらないな…と内心思った。

ピッという軽い電子音の後、電波を受信する画面が目の前に広がる。


『本日午後3時ごろ、第2エリア27番道路で、歩行者が車専用道路を逆走。車に乗っていた21歳の男性と歩行者が衝突した事故が起こりました。調べによりますと男性は病院に搬送される前に死亡しており、運転手側の男性には過失がなかったことを発表しました――』


逐一にでも新らしいニュースを公表しようと、無機質な電子音声が、文章を淡々と読み上げる。

そして読み終わると何事も無かったかのように次の原稿、次の原稿。

道路も車も全て自動になったから、事故なんて珍しいものだ。

大通りや番号のついた道路は全部管理されていて、運転を手動でしなくてもセンサーが働き、勝手に行きたいところに連れて行ってくれる。

さすがに管理されていない道は自動とまではいわないが、車自体に危険回避システムが導入されていて人が死ぬという場合のほうが少ない。


 ――…っと、職業病が。


ついつい職業柄深くまで考察してしまう癖がある。

その所為で前の前の前の彼女に、重いといって逃げられてしまったのだ…、直さなければ。

考え込んでいれば背後で唸るような声が聞こえた。

目を覚ましたのかと思い、後ろを振り向けば…もぞもぞと動き、寝返りをうつ。


――…そもそも何でこんなことになったんだっけ。


可愛らしく寝息を漏らす少女の顔を見つめ、ほんの数時間前のことをぼんやり思い出した。


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