独:Der Alte würfelt nicht.
――数時間前。
白亜の球体の建物に、空を覆うドーム型の厚い特殊なガラス。
このエリアだけは他エリアの外気から遮断されているため、独立した地域のような印象をいける。
銀色に輝く数個の輪が、その周りを取り巻くように浮き上がり、建物に反射する。
満遍なく光を吸収し、エネルギーとして再構築するのだ。
テロが頻繁に起こっていた時、病院が狙われやすかったため、360度見渡す防犯カメラも備え付けられているらしい。
「おいおい、身元が分から無いと入れないんじゃなかったか?俺たちは問題ないがこの子は…」
「まぁそれは、…これで」
「それって職務乱よ――…」
「軍の回線を私用で使ったやつが何をいう」
レイの手首に光る銀色の腕輪。
それにはこの国を統治する軍の紋章が深々と彫られ、階位を意味する、三本の細いチェーンが印象的であった。
本来ならこの男はシャーナス家の人間であるから、軍になど入れるはずがない。
しかしどういった経緯かは知らないが、何らかの特例の処置がとられて入軍が許可されたらしい。
そして今や、俺の上司になって日々のパワハラ…いや、指導に当たってくれているのだ。
「ほら、早くそいつを起こしておけ。私は担いでいかないからな」
「わかったよ。…ほら、起きるんだ。おーい…」
「そいつの両頬をパンパンパンってすればいいだろう。すぐ気付くさ」
「…最低だ。子供が出来てもきっと嫌われるぞ…」
ゲートを潜れば番号が表示され、指定された駐車場に停めろと指示がでている。
もしも指定されていない場所に停めれば、罰金だ。
車が停車する振動を感じ、自動でドアが開けば、消毒の臭いが鼻に付く。