独:Der Alte würfelt nicht.
「げ、…衛生管理習慣だっけか、…臭っ…」
「来るもの全員雑菌だと思ってる衛生部のやりそうなことだろうな。最近新種のウィルスが発見されたらしい。持ち込ませないようにだろう」
「へー…新種のウィルスか。危ないのか?」
「興味がない」
それはないだろうと呟きながら、車の後部座席に横たわる少女を抱えあげる。
恐ろしく軽い体は、力を加えたら骨が折れてしまいそうなほどに頼りなかった。
光に照らされて気付いたのだが、目元にクマが出来て頬が少しだけこけている。
襟元から覗く首筋からは、皮から破れ出てしまいそうな鎖骨がむき出しになっていた。
「…可哀そうに。ダストチルドレンの一人か。もう何日も栄養を取ってないような顔をしている。ここら辺でダストチルドレンの集まりと言えば…F27区画あたりかな…」
「嗚呼、それはいいな。行ってやれ。きっと君は極上の鴨になるよ。きっと翌日には全裸で徘徊だな。今度こそ私を呼ぶなよ?いいか、呼ぶなよ?」
「こ、…のッ…。行かないに決まってるだろ?それに俺は子供に力負けしないし、この子だって、あんな場所に居たくないかもしれない。…だったら正式な手続きをして、施設に入れる事も…」
「笑えるほどのお人好しだな。いいんじゃないのか?施設に入れるより君の妹にしてしまえ。ソレはいい子だ。私もその方が御しやすくて助かる」
シャーナス将軍は早々と白い建物に向かって歩みを進めていく。
肩に顎を載せるように抱きかかえ、少女が落ちないようにもう一度深く抱き込む。
歩くたびに頬に髪が触り、くすぐったい感触を感じながら、病院へと入るゲートに向かう。
IDを照合するためのゲートをくぐれば、当たり前のようにエラー音。
遮断するように半透明の薄い光の幕が現れ、これ以上先に進むなと警告する。
やはり鳴ったかと苦笑いを隠せないシャーナス将軍は、先ほどの軍の紋章が描かれている腕輪を、備え付けの監視カメラに見せる。