独:Der Alte würfelt nicht.
「結局、国の職員の一人が内部告発して事が明るみに。当時の関係者すべてが裁かれた。クーデターやデモ運動やらで大変だったらしい。過激派もいまや見る影も無くなったな」
「パンドラのシステムが新たに立ち上げられて、国民すべてにIDが振られて…国に管理されれば下手なこと出来ないわよ。GPSで位置情報も検索されちゃうし…生きにくい世の中ね」
「おや。善良の一般市民には逆に重宝されているようだが。君が作った世界も大変好評だ。IDに不都合なことが無ければ、だが」
「パンドラボックスのメンテナンス引き受けてもらっちゃって悪いわ。シャーナス家の技術部は優秀な方ばかりだから安心。後半年は保守点検、修正作業に立ち会うとして…そのうち権限をそちらのリーダーさんに移行しようと思っているの」
シャーナス家が出資し、大企業となったKP社。
レイは現役の軍人だが、KP社の代表取締役の肩書きも持っていた。
プライベートルームに案内されると、ほんのりと漂う紅茶の香りに、彼の好きな銘柄を思い出す。
苦手だった紅茶の渋みも、今では彼と時間を共有するための大切なエッセンス。
「ダージリンでいいか?先週いい茶葉が手に入って君に御馳走しようと思っていたんだよ。あと、同僚が木苺のスコーンを焼いてくれている。よければ食べてやってくれ」
「モテるのね。軍の女の子を何人味見したのかしら。当てっこゲームでもする?」
「…男からの、差し入れだ。君が好む味だと喜んだから、我慢して貰ってきているんだよ。悪趣味だアリス。何度言わせるつもりなんだ」
「何度でも。男にもモテるのね。羨ましいわ」
これで5回目、以前投げかけた質問に律儀に同じ返答を返してくれた。
釣り合わない関係だと分かっていても、私のことでムキになってくれる彼。
もっと可愛い自分を演出する事も出来るのに、彼に会うと最低レベルの女に成り下がってしまう。
それでも困った顔をして頭を撫でてくれるレイが、堪らなく好きだ。