独:Der Alte würfelt nicht.
『――ID認識完了。3名の入場を許可します』
「うわぁ…身元不明者入れさせるなんて…どんな弱み握ってるんだよ…」
「普段まじめに仕事をしているから、こういう時に助けてくれる人がいるんだな。ははは」
「…機械を相手にしていたのに…助けてくれる“人”ね…」
エラー音とともに表示された俺の前の光が消え、道が開く。
身を引き締めるように少女をもう一度抱え上げ、開けた道を歩くが…ふいに少女の身体が自らの意図で動いた事に気づいた。
長い睫に伏せられた瞼が震え、先ほどまで力を感じさせなかった指先が俺の服を握った。
穏便な動作で瞼が開き、今まで見る事の出来なかった大きな瞳が外気に晒される。
「…ッ…ッ……うッ…」
「おい、大丈夫か?意識が――」
「目が覚めたぐらいで騒ぐな」
「――う、ッ…あ…アアァ――ッ!!」
必死で何かを訴えようとしている唇は、本人でももどかしいほどうまく動かないようだ。
声が出ていないことも分かっていないのか、掠れた吐息しか俺の耳に入らない。
シャーナス将軍が何かを必死で伝えようとする少女を見て、今まで見たことが無いほど眉を潜めた。
少女は人の手で作られた太陽に弱々しく手を伸ばし、ありもしない空を映したようなブルーサファイアの瞳で仰ぎ見る。
宝石のように美しい瞳から、一筋の玉響の雫が頬を伝って流れた。
あまりにも美しすぎる光景で、小さな薔薇色の唇から小さく声が漏らされる。