独:Der Alte würfelt nicht.
「――…ア…リス…ッ…」
「――おいッ!お前ッ!!」
涙が顎を伝い服に落ちた瞬間、少女はまるで操り人形の糸が切られたように脱力する。
生気を失った顔に焦って、俺は混乱してシャーナス将軍に助けを求めた。
しかし至って冷静、いや、それ以上に何か不愉快なものでも見るような視線を少女に向けていた。
俺の伺うような表情に、シャーナス将軍はいつものようにニヤリと笑い、何事も無かったかのように先へ進むのだ。
――今まで一緒に仕事をしてきたが、あんな顔見たことが無いぞ…。
何にも興味を持たず、面倒くさいと言って吐き捨ててきたシャーナス将軍。
話せば小馬鹿にしたような態度を取り、不真面目を絵にかいたような男だった。
だが先ほどの顔は、そこにある“物”が、不愉快極まりなく、どうにかする事すら億劫で”眺めて”いたように思う。
深く追求すれば誤魔化すだろう、あいつはそういう男だ。
「さ、さっきから…この子の扱いが酷いんじゃないのか?そりゃ…ダストチルドレンかもしれないが…女の子なんだ。もう少し優しく…」
「ああ、ソレには必要ないからいいんだ。気にするな。女の子が嫌いなわけでもない。でも男の子供は嫌いだ」
「…ソレ、って。この子の事、何か知っているのか?」
「さぁ、どうだろう。語る時間が惜しい。ソレの為に時間を割くのが面倒だ。私の1分はソレの五回分の人生より価値があるからな。ほら、早く行くぞ」
この子の何かを知っているのか、それともダストチルドレンだから嫌悪しているのか。
どちらとも言えない憎悪は、確実にこの子に向けられているものだった。
前を歩く男から守る様に、再び意識を失った少女を抱く力を強める。
見通せない奴の思惑を推測しながら、何ヶ月かぶりの医療施設へと足を踏み入れた。