独:Der Alte würfelt nicht.
――そして今に至る。
幸せそうに眠りにつく少女は、初めて会った時の事を忘れさせるほど、安らかな笑みを浮かべて眠り続けていた。
少女の身体に付着していた血液は、少女のものではないと病院で判明はしたが、それを調査すると足早に帰っていったあの上司が憎らしい。
男二人で長居したいという対逸れた趣味はないが、病院での煮え切らない気分は収まらなかった。
熱いコーヒーに口をつけて、気をそらすために少女の寝顔を眺める。
――何故あの場所に…何かの事件に巻き込まれたのか?
あの光景を思い出せば、今にでも嘔吐感が蘇ってくる。
死体を見たのは初めてではないが、あれほど凄まじく惨いものは無い。
シャーナス将軍が現場を見た時は、思った以上に平然としていて、場馴れしていると感心するほど。
ストークス家の一人だと周りから持て囃され、入軍したばかりの頃なのにそれなりの地位をもらえた。
それは当り前だと思っていたが…シャーナス将軍の下に配属になった時から、俺の性根は叩き直された。
「…トイレ掃除は無いよなトイレ掃除は…。しかも女性用のトイレなんて…」
思い出しただけでも顔が火が出るほどの暴挙に、何度もストークス家の権威を振りかざそうとした。
だが、いつも寸前の所で兄さんたちに止められ、何度も未遂に終わっている。
最近、シャーナス家がハーグリーヴス家と同盟関係にあるという達の悪い噂が流れているのだ。
その当時は信じるに値しないほどの陳腐なものだったが、兄さんたちもその後ろ立てもあってか、手を出せなくなってしまっているらしい。